『数Ⅲ方式ガロアの理論』のガイドブック

矢ヶ部巌『数Ⅲ方式ガロアの理論』(現代数学社)のガイドブックを作ることを目指します。ブログの先頭に戻るには、表題のロゴをクリックして下さい。

数Ⅲ方式ガロアの理論(その27)

 現在2019年12月10日6時23分である。

麻友「随分、早い時間ね」

私「昨日、ちゃんと21時に、眠り薬飲んで、寝たから、比較的気分よく、起きられた」

麻友「太郎さん。この調子で、どんどんガロア進めない? もしガイドブックが3年後に完成したら、それは、太郎さんの勲章よ」

私「言うは易く行うは難し、だけど、しばらく頑張ってみよう」

若菜「お父さん。お母さんは、きっと3年後まで、待っていてくれますよ」

結弦「『ホーキング&エリス』のリベンジだな」

私「じゃあ、始めて」

麻友「テキスト p.16 l.7 から」



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 29番44号は妙に細い通りの中程にある.古い家だ.格子戸を開けると,叔父さんが待っている.



      目標


広田 ガロア理論の発端は3次方程式・4次方程式の解法だ.そこで,今日は,3次方程式の解法を調べよう.高校では教わらないだろう.

佐々木 出て来たよ.

広田 本当か.

佐々木 数Ⅰで.たとえば,3次方程式

{x^3+2x^2-5x-6=0}

 定数項 {-6} の因数を,片っぱしから,左辺の {x} に代入する.{1} はダメだが,{-1} を代入すると {0} になるから,左辺は {x+1} を因数にもつ.


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結弦「ちょっと、ストップ。因数って、何? 素因数分解のこと?」

麻友「これ、調べたのよ。まず、整数の因数は、その整数の約数と、思って良い。ただし、ここでは、自然数ではなく、マイナスもあり得る整数を考えているから、{-6} の因数は、{-6,-3,-2,-1,1,2,3,6}{8} 個」

若菜「整数でない場合は?」

麻友「整式の場合、例えば、{x^2+5x+6=(x+2)(x+3)} の場合、{x+2}{x+3} が、因数なのよ」

私「良く勉強してきたね」

麻友「高校の最初に習ったのを、なんとなく覚えていたの。これにも、ちょっとだけ、出てる」

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私「そうだね。実際この計算を、やってみた?」

麻友「この計算って?」

私「佐々木が、{1} はダメだが,{-1} を代入すると {0} になる、と言ってる計算。本当に、{1} でダメなのかどうか、確かめた?」

麻友「本に書いてあること、信じちゃ駄目なの?」

私「麻友さんは、麻友さんの数学を築くんだよ。他の人が正しいと言ったから、では、自分の数学ではない」

麻友「太郎さん、そこまでやってるの? ちょっと、ノート見せてよ」


 私のノート22ページ

 読者注

{f(x)=x^3+2x^2-5x-6} とおく.

{f(1)=1+2-5-6=-8} ダメ

{f(-1)=-1+2+5-6=0} OK


 {x+1} を因数に持つことは因数定理から.


 定理(因数定理)

 整式 {f(x)} が、{f(\alpha)=0} ならば、{x-\alpha} を因数に持つ.

 証明

 {f(x)}{x-\alpha} で割ったときの商を {Q(x)} 、余りを {R} とする.

 {f(x)=(x-\alpha)Q(x)+R}

 {x=\alpha} を代入し、

{0=f(\alpha)=(\alpha -\alpha)Q(\alpha)+R=R}

より、{R=0}

これより、{f(x)=(x-\alpha)Q(x)}

よって {x-\alpha} を因数に持つ。


 証明終わり


 注終わり


 ノート終わり

麻友「因数定理って、あったわね。でも、ここで、証明付きで書けるなんて、半端でない」

若菜「{\alpha=-1} の場合なんですね。だから、{x-\alpha=x-(-1)=x+1} が、因数になる」

結弦「こりゃー、高校レヴェルの数学を、勉強しておかないと、置いて行かれるな」

麻友「じゃあ、少し先」


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 ほかの因数を見つけるために {x+1} で割る.割るといっても,多項式の割算なんてチャチな事はしない.高三だから組立除法を使う:



   1   2  -5  -6   -1

      -1  -1   6
________________
   1   1  -6   0


から,商は {x^2+x-6=0} で,問題の方程式は

{(x+1)(x-2)(x+3)=0}

因数分解される.だから

{x=-1,x=2,x=-3}

と求まる.

 チャンと習ってるよ.



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麻友「前回も話したけど、組立除法というものが、分からないのよ」

私「組立除法(くみたてじょほう)は、京都から戻ってきて、私の頭が壊れてしまったことを、実感した出来事のひとつだった」

麻友「相対性理論のブログで、『相対論への招待(その13)』と『相対論への招待(その14)』という投稿で、書いていたことね」

私「弟の数Ⅰの参考書では、具体的な例を見せながら、組立除法を、納得させるようになっていた。私は、整式の割り算や、赤ペンの記入などは、できないので、ノートをスキャンした。

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麻友「実際に、今回の場合で、やってみてよ」

私「{x^3+2x^2-5x-6} を、{x+1} で割るのだから、{x-\alpha} なら、右上に、{\alpha} を書くのだから、プラスマイナス逆になって、{x+1} なら、{-1} を右上に書く。係数を並べて、


   1   2  -5  -6   -1


________________

となる。ここから、まず、先頭の1を、下に下ろす。


   1   2  -5  -6   -1


________________
   1


次に、1と、右上の-1をかけて、-1を2の下に書く。



   1   2  -5  -6   -1

      -1
________________
   1


次は、2と-1を足し算して、1を下に書く



   1   2  -5  -6   -1

      -1
________________
   1   1

次に1と右上の-1をかけて、-1を-5の下に、書く。



   1   2  -5  -6   -1

      -1  -1
________________
   1   1

それから、-5と-1を足して-6を、下に書く。


   1   2  -5  -6   -1

      -1  -1
________________
   1   1  -6


次に-6と右上の-1をかけて、6を-6の下に書く。



   1   2  -5  -6   -1

      -1  -1   6
________________
   1   1  -6

最後に、-6と6を足して、0を下に書く。



   1   2  -5  -6   -1

      -1  -1   6
________________
   1   1  -6   0

 今回は、{x^3+2x^2-5x-6} が、{x+1} で割り切れたから、最後が0だが、割り算の余りがあれば、0のところに現れる。割り算の商は、 1 1 -6 より、{x^2+x-6} と、求まる。佐々木の計算と、合ってるね。この説明で、分かってもらえたかな? とにかく、1回は、手を動かさないと、分かるものも分からないよ」

若菜「お父さん、本当にお母さんのこと好きなんですねえ。手取り足取り説明してたもの。家庭教師でも、ここまで丁寧にしてくれませんよ」

結弦「というより、この組立除法という技が、この本の中で、何度も使われるから、絶対理解しておいて欲しかったんじゃないかな」

麻友「結弦、いい勘してる。あり得るわね。どうなの太郎さん」

私「実は、こんな整数じゃない、分数係数の整式の組立除法をこの本は、要求する。だから、超高校レヴェルの、組立除法をやるんだ。ただ、やり方は、全く同じなので、今マスターしておけば、苦労しない」


麻友「第29章まであるのに、第2章の出だしで、この難しさ。恐ろしいわね」

結弦「だからこそ、冒険だ」

若菜「最近、『ウソをつかない数学』というゲームの企画書が、進んでませんが」

私「最近の、ほとんど、アニメ『アナと雪の女王』のレヴェルの、リアルさの映像のゲームを知って、これを上回る数学のゲームなんて、どうやったら作れるんだろうってね。ある意味、萎縮しちゃったんだ」

麻友「太郎さん。いいことがあるわ。どうせ、世界中で楽しまれるゲームなんて、2,3年で、作れるわけないわ。だったら、このガロアの連載、本当に、書き続けなさいよ。太郎さんが、高校生でも楽しめる、数学の冒険をしているのが、少しずつ広まって、みんなの耳に入れば、『これを、ゲームにしましょう』という人も、きっと現れるわよ」

結弦「そうだよね。そうすれば、お父さんは、本当に、数学を冒険にした人になる」


私「じゃあ、ひとつ面白い話があるんだ」

若菜「なんですか?」

私「この本って、『少し進んだかなあ、と思っていると、『じゃあ、もう一度、2次方程式に戻って復習しよう』というのが、何回もあって、なかなかガロアが出てこない』と書いていた数学者がいて、私もその通りだと思う」

若菜「何回くらいあるんですか?」

結弦「もしかして、10回くらい?」

麻友「辛抱強い太郎さんが言ってるのよ。そんなもんじゃ、ないんでしょう。20回以上でしょう」

私「それを、4人で数えながら、読んで行こうよ。25回くらい、『反省しよう』『戻って考えよう』『これは、出て来たな』などと、どこまで戻って良いのか困る場面が、あるんだ」

若菜「それを、お父さんは、高校2年で、少なくとも、第18章まで、理解した」

私「でも、大学へ行って、嫌でも群論を勉強しなければならなくて、勉強したお陰で、この本の後半は、もうほとんど、分かっている」

麻友「太郎さんが、大学へ行けというのは、そういう強制的にでも勉強させられたことが、後で、役だったからなのね」

私「私の場合、解析力学(かいせきりきがく)などというものは、大学に入って半年くらい経つまで、存在すら知らないものだった。解析力学を知っただけでも、大学の理学部へ行って良かった」

若菜「お父さん、中退しても、残念に思ってないんですね」

私「望んでいた以上のものを、もらったからね」

結弦「僕たちも、この本から、望んでいた以上のものを、受け取ろう」

私「じゃあ、今日は、解散」



麻友「太郎さん。太郎さんも言っていたように、微分積分に関しては、もの凄くたくさんの本がある。一方で、ブルバキは、量が多すぎる。『現代論理学』は、レビューなどを見ていると、同じ傾向の本が他にもありそう。『細胞の分子生物学』は、太郎さんの専門外。普通の人だったら、1冊片付けるのに、2年あれば十分。でも、太郎さんは、カメさんだから、3年あげるわ。2022年のクリスマスまでに、ガロアのガイドブック作って」

私「ガイドブック作っても、お金は、入ってこないよ」

麻友「私、結弦が、『ワインバーグは?』って、言ったの何かなと思って、後で調べたの


ランダウ=リフシッツ理論物理学教程を学ぶ人のために


ワインバーグ 場の量子論を学ぶ人のために


 こういうページが、あるのね。しかも、言葉を追っていくと、この人、プロの物理学者じゃないみたいね。ページは、無料で閲覧できるから、ボランティアよね。

 私、太郎さんに、お金を稼ぐことを、要求できないんだと、分かったわ。太郎さんより数段上の仕事をしていながら、お金をもらっていない人が、いるのですものね」

私「やっと、分かってくれたか。科学というのは、お金目当てでは、できない世界なんだよ。今のエンターテインメントの世界は、どれだけお金を儲けるかで、良い悪いが、評価されがちだから、麻友さんに理解できなかったとしても、無理ないけどね」

麻友「太郎さんの『数Ⅲ方式ガロアの理論』のガイドブックが、完成したら、何か、ご褒美をあげるわ」

私「期待しているよ。じゃあ、今日は、バイバイ」

麻友「バイバイ」

 現在2019年12月10日13時34分である。おしまい。