『数Ⅲ方式ガロアの理論』のガイドブック

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数Ⅲ方式ガロアの理論(その38)

 現在2021年7月2日18時17分である。(この投稿は、ほぼ3522文字)

麻友「真面目に、ガロアやってる」

私「これも、愛読書ナンバー3なんだから、徹底的に、読み込む」

麻友「前回の最後に、『『佐々木君がさっき実演したように』のところの、さっき、がどこなのか、分からなかったんだけど、次回教えてね』と、言っておいたけど、見つけてくれた?」

私「この本は、数学の本なんだけど、数式番号が振られてないので、『さっき実演した』とか言われても、どこなんだか分からず、非常に苦労する。この第2章を読むときも、徹底的に指示語の指すものを、チェックしながら読んだから、大丈夫だよ。私のテキストに、『さっき実演』にアンダーラインを引いて、『P.16 組立除法』と、メモしてある」

若菜「組立除法(くみたてじょほう)って、この章の最初ですよね」

結弦「あっ、そうか。ひとつでも根が見つかれば、組立除法で、因数分解して、1次式と2次式との積になるんだ」

麻友「章の最初が、さっき?」

私「この本には、振り回されるから、これくらいは、慣れっこになるよ」

麻友「じゃあ、始めるわよ」



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広田 これしか手掛りはないだろう.

 未知数 {u,v} についての方程式

  {(u+v)^3+p(u+v)+q=0}

一組の根がみつかれば,最初の3次方程式は解ける,という方針が立つ.

小川 根の和は初めの方程式の根ですから,佐々木君がさっき実演したように,初めの方程式は1次式と2次式との積に因数分解されるからですね.

佐々木 やっぱり,因数分解にもどるじゃない.でも,この方程式を解くのは難しそうだな.

広田 方程式を解くというのは,すべての根を求める事だな.その意味では,難しいだろう.しかし,さっきもいったように,少なくとも一組の根がみつかればよいのだから,話は簡単だ.

佐々木 どうして.

広田 未知数が二つだから,一方を消去して他方だけの方程式に還元させる──という原則があるだろう.ところが,全部ではなく少なくとも一組の根がみつかればよいのだから,かなり自由に未知数を消去できる.

小川 {u}{v} とを適当な関係で結びつけ,一方を他方で表して,解き方を知っている方程式に導くのですね.

広田 その方針で行ってみよう.{u}{v} とを結びつける関係としては,何が浮かぶ.

小川 文字の計算では,加法と乗法とが基本ですから

{u+v=}定数  とか  {uv=}定数

とかですね.

佐々木 第一の関係はダメだよ.右辺の定数をみつける事は,もとの3次方程式にもどる事だから.

広田 第二の関係はどうだい.

小川 適当な定数があるかどうか,方程式の左辺を展開してみます.この関係が出てくるように注意して変形します.

   {(u+v)^3=u^3+3u^2v+3uv^2+v^3}
        {=u^3+3uv(u+v)+v^3}

ですから

   {u^3+v^3+(3uv+p)(u+v)+q=0}

と変形されます.それで

   {3uv=-p}

という関係が考えられますね.



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結弦「その3次式は、どこから出てきたの?」

麻友「これくらいは、ノーコメントで素通りしても、良いくらいに、ゼミのレヴェルを上げなきゃならないんだろうけど、私自身が、困っちゃったのよね。でも、1ページ前を見ると、

  {(u+v)^3+p(u+v)+q=0}

という式が、あるでしょ。小川君は、これを、展開して行ってるのよ。

{(u+v)^3+p(u+v)+q=u^3+3uv(u+v)+v^3+p(u+v)+q}

{=u^3+v^3+(3uv+p)(u+v)+q=0}

とね」

若菜「お母さんも、努力してるんだ」

麻友「誰かさん。数学の話を聞いてあげないと、がっかりするから」

若菜「いっそ、ゼミ、サボっちゃいましょうか?」

麻友「アイドルは、綺麗なところだけ見せるもの、なんて、格好つけなきゃ、良かったかな?」

私「誤植では、ないのだが、余りにも、古い版を重ねて使っているので、活字がいくつも、欠けたり、ゴミが入ったりしている。テキスト24ページの9行目、『佐々木 どうして.』の『て』の活字が、欠けている。11行目、『ところが,』の『,』が、すり減って『.』みたいになってしまっている」

結弦「お父さん、そんなのまで、カウントしてる?」

私「気が向いたらね」

若菜「襟を正せって、ことですかね?」

麻友「先、進めるわよ」


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   {u^3+v^3+(3uv+p)(u+v)+q=0}

と変形されます.それで

   {3uv=-p}

という関係が考えられますね.

佐々木 これは使える.この関係から {v}{u} で表わすと

  {\displaystyle v=-\frac{p}{3u},}

これを,もとの方程式に代入して

  {\displaystyle u^3-\frac{p^3}{27u^3}+q=0}

つまり

  {\displaystyle (u^3)^2+qu^3-\frac{p^3}{27}=0}

となって,解ける方程式に導けるよ.大成功だ.

小川 チョッと,気になるナ.

佐々木 何が.

小川 {u} で割るところ.連立方程式

{\left\{
\begin{array}{l}
\displaystyle
u^3+v^3=-q\\
\displaystyle uv=-\frac{p}{3}
\end{array}
\right.
}

を解くわけだけど,この根は連立方程式

{\left\{
\begin{array}{l}
\displaystyle
u^3+v^3=-q\\
\displaystyle u^3v^3=-\frac{p^3}{27}
\end{array}
\right.
}

を満足するから,{u^3}{v^3} とは2次方程式

{\displaystyle t^2+qt-\frac{p^3}{27}=0}

の根でしょう.こう考えると,{u}{0} かどうかを気にしなくてもスムんだけど.

佐々木 どっちにしても,最後の2次方程式は同じ形だよ.


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結弦「えっ、3次方程式が、解けたの?」

麻友「そうなのよ」

若菜「割り算したり、割り算しなくてスムとか、何言ってるか、良く分からないのですけど」

私「今日の最後のところは、かなり難しい。というか、ここをクリアするために、人類の数学は、16世紀の1535年頃までかかった。聞いてすぐ分かる天才は、いるはずない。安心して、ゆっくり今日の話を、記憶に定着させて欲しい。次回、丁寧におさらいする」

麻友「太郎さんの数学の力は、確かに凄い。私でも、そばにいるだけで、方程式というものが、どういう風にして、解かれてきたか、分かるもの」

私「本当に、そう思ってる?」

麻友「数学やるのは、半分、鬱陶しい。でも、数学の魅力も分かりだした。私に数学を教えられるのは、太郎さんだけ。だったら、利用してみようかなと、思う」

私「麻友さんが、引退して、1年経って、ほとんど信号もなくて、最近、麻友さんに、本当に振られたのかな? と、ちょっと感じだした。普通の人なら、このまま、フェードアウトするのだろう。私達は、どうなるだろうね。それは、2人で決めること。恋愛は、1人では成立しないからね」

麻友「今晩は、これで、おやすみなさい」

若菜・結弦「おやすみなさーい」

私「おやすみ」

 現在2021年7月2日21時38分である。おしまい。