『数Ⅲ方式ガロアの理論』のガイドブック

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数Ⅲ方式ガロアの理論(その65)

 現在2022年12月30日17時48分である。(この投稿は、ほぼ4956文字)

麻友「今日は、あっちこっちから、引っ張りだこだったみたいね」

私「眠っていたら、以前マックで会っていた、宮田さんという人から、電話がかかってきた。スマホで、電話を受けようとしたら、切れちゃった。スマホの表示を見たら、3通メールが、来てた。読んでいったら、午後に弟が、実家に来るという。それを、頭に置いて、宮田さんに電話したところ、今日、マックで、会いませんか? とのこと。『数学をつくった人びと』という本を、返すつもりだろうと、分かっていたけど、弟が来るなら、実家へ行こうと、今日、会うのは、断った。それは、10時半頃のこと。もう一度眠ってから、11時半頃起きて、シャワーを浴びて、実家に向かったというわけ。実家にいたとき、宮田さんが電話してきて、マックの知り合いのもうひとり、秋山さんも、一緒だとのことだった。結局、最初に電話を取れなかったから、宮田さんや、秋山さんに、会えなかったというのに、近い。まあ、弟と会うのは、12月7日以来だったから、当然だけど」

若菜「本当は、秋山さん達にも、会いたかった?」

私「よりによって、今日じゃなきゃ、良かったんだけど」

麻友「一方が、私だったら? どちらを選ぶ?」

私「それは、場合による。通常なら、麻友さんを、優先するけど、よっぽど父が、救急車で運ばれた、とかいうのなら、事情を話して、麻友さんには、待ってもらう」

麻友「先日は、お父様が、救急車で運ばれても、マックにいたけどね」

私「まあ、今日の場合、順番の問題だったね。母が、9時7分にメールを、くれていて、10時に宮田さんが、電話をくれて、私が受けたのに、向こうが、電話に出なかったのが、まずかった。私は、取り敢えずメールをチェックし、母のメールに気付いたんだ」

麻友「その順番が、逆だったら、秋山さん達を、優先したかも?」

私「弟には、3週間前に会っているし、今回話す内容は、何もなかったから、先に秋山さん達と会う約束をしていたら、結果は逆になっていただろう」


結弦「どっちを、選ぶかというのは、恋愛でもあるけど、今、そんな話している場合?」

私「そうだった。結弦、良く言った。今日、少し、鬱から良い方に向かったのだから、昨日の続き、書こう」

結弦「昨日、お父さんが、

 さて、複素数係数、複素数変数の方程式を解くとは、

{f(z)=a_nz^n+a_{nー1}z^{n-1}+…+a_1z+a_0}

という関数が、

{f(z)=0}

となる {z} を、見つけることだ。

と、書いて来たんだった」

私「大学の数学の文献なんかだと、こういう風に、『これでも分かるか?』と、言うほど、高飛車な言葉遣いをしてくる。でも、慣れてしまえば、悩まなくなる。今回の場合でも、複素数係数というのは、例えば、整数も、複素数の1つなのだから、次数 {n} を、{n=2} と、置いて、{f(z)=a_2z^2+a_1z+a_0} として、{a_2=1,a_1=2,a_0=1} と、係数を決めて、変数 {z}複素数の中を、動かすと言うことなんだ」

若菜「どこが、方程式なんですか?」

私「この場合、

{f(z)=a_2z^2+a_1z+a_0}

の、

{a_2z^2+a_1z+a_0}

の部分が、方程式の左辺で、これを、{0} と等しいと置いた、

{a_2z^2+a_1z+a_0=0}

が、解きたい方程式なんだ。{a_2=1,a_1=2,a_0=1} とすれば、具体的な、

{z^2+2z+1=0}

という方程式になる」

結弦「それだけか。何でも無い」

私「専門分野の文献を、読む場合、どうしても、専門外の文献だと、分からなくて困る。栄信工業に父と入って、半年ほど経った頃、先輩から、

『この機械について、使い方はマニュアルに書いてあるから、勉強しておいて』

と言われた。空圧機器というものなのだが、見たこともないから、記号も何も、分からない。ちょっとずつ、切り崩して行ったが、最後に、

こういう図の下の記号の意味が、分からない。社長が、『分からないところ、聞けよ』というので、『ここに、アクチュエーターって、書いてあるのですが、アクチュエーターって、何ですか?』と聞いたが、答えられなかったのか、『もうちょっと、考えてみな』と、言ったので、解決しなかった。工業高校とか、大学の工学部に行ってる人達にとって、当たり前なのだろうが、こっちは、素人だから、出だしから分からなかった」

若菜「それで、どうしたんですか?」

私「2週間くらいは、分からなくて、でも、『マニュアルに書いてある』というのだから、質問するわけにも、行かず、頭の中に、チラチラとあった。そして、電車に乗っているときか何かに、『もし、上は2箇所、下は3箇所、空気が行き来できるところがあって、そのつながり具合が、右の箱の場合と、左の場合で、一方から他方へ、ガチャッと、切り替わるとしたら?』と、考えて、『そういうことか』と、納得した。いずれにせよ、今居る会社は、専門外であることは、確かだと思った」

麻友「そういう場合でも、『じぇーんじぇん、分かりましぇん』使わなくても、分かっちゃうんだ。2週間とか、1カ月かかるにせよ、自分で分かっちゃう」

私「迷宮入りしたものも、あるけど、何だかんだ言って、大抵解決してきた。それでも、解決できないのが、『数Ⅲ方式ガロアの理論』だったんじゃない」

結弦「なるほどね。それで、代数学の基本定理の証明と、これが、関係あるの?」

私「直接は、関係ないけど、いつも、方程式を解くときに、使っている方法とは、全然違う方法を使うから、ビックリすると思う」

結弦「それは、分かった。証明、見せてよ。もう、21時41分だから、時間切れになっちゃう」

私「おしゃべりが、過ぎたねえ。証明しよう」

 定理 代数学の基本定理

 複素数係数、複素数変数の方程式を解くとは、

{f(z)=a_nz^n+a_{nー1}z^{n-1}+…+a_1z+a_0}

という関数が、

{f(z)=0}

となる {z} を、見つけることなんだけど、これを証明したガウスは、こう考えた。

 変数 {z} は、複素数だから、複素平面の点だ。これを、動かすことを、考えよう。原点の周りを、円を描くように、{z} が、動いたとすると、関数の値も、それに伴って、動くのでは、ないか? 下図右のように。

麻友「証明中、ごめんなさい。関数の値が、こんなに、クルクルと、回るものなの?」

私「これが、関数の値だと分かっただけでも、大したものだけど、実は、似たように、複素数の変数の多項式に、どんどん変数を入れて行って、多少、グルグルなるのを、試したことは、あるけど、この私の図ほど、クルクルなったものは、実は、見たことない。でも、このクルクルなっている曲線、ボキッと曲がった、角がないだろ。そういう場合だったら、こういう形になる関数というのを、作れるかも知れない」

若菜「それで、この関数の値の曲線は、元のところに、戻ってくるんですか?」

私「そう、どんどん、質問していいよ。戻ってこないような気もするかも知れないけど、戻ってくる。変数が、原点の周りの円を、動いているから」

若菜「じゃあ、原点の周りの円でなくて、実軸上を、端から端まで動いたら、無限遠とか、行っちゃう?」

私「複素解析、まだ、チョボチョボなんだけど、その場合、無限遠へ行くはず。若菜もすごいな」

結弦「それで、ここから、どうしたいの?」

私「原点の周りの円の半径を、大きくすると、関数の値の方の曲線が、必ず、原点の周りを、1回は、回るだろうと、ガウスは、言うんだ」

結弦「それは、証明しないの?」

私「私が高校時代、図書室で読んだ、百科事典に、その証明は、なかった。でも、私は、代数学の基本定理の証明に、初めて触れたときだったから、十分凄い証明だと思った」

麻友「まず、変数の半径を、大きくすると、原点の周りを回る。そして、次に、半径を小さくしていくと、関数の値の曲線が、値の方の複素平面で、原点を通るというのよね」

結弦「つまり、そのときの変数 {z} が、{f(z)=0} の解だ。つまり、複素数の解が、あると、証明できた」

若菜「ちょっと、実感湧かないですけど、でも、本来、代数学の基本定理ですよね。幾何学使ってますけど」

私「代数学の基本定理は、方程式についての定理だから、代数学の基本定理というけど、証明は、幾何学的に行う。しかも、幾何学の細部をきちんと証明するには、解析学を使う。数学全部使う、定理なんだ。

などで、目標とする定理に選ばれたのも、納得だね」

結弦「でも、ひとつ解があることが、分かったけど、{n} 次方程式に、{n} 個、解があることを、証明しなければ、ならないのだろう?」

私「そこを、丁寧に書いてある本は、少ない。1個見つけて、後は、因数分解して、帰納法、という本が、結構多い。ただこれは、ガウスの時代(19世紀初頭)、5次方程式以上は、代数的に解けておらず、あくまで、{n} 次方程式が、複素数の解を、確かに持つということを、証明したかった。という事情がある。数学者達は、安心したんだよ」

麻友「太郎さんの本を、チラチラ見ていると、20世紀の初め頃、数学者達は、自分の数学を正統なものと見なせるか? というように、凄く悩んでいたそうね。ホワイトヘッドという人とラッセルという人が、『プリンキピア・マテマティカ』という本を書いて、私達は、あっさり、{1+1=2} を、証明したけど、本当に第一原理から、何十ページもかけて、証明してあるそうね。19世紀の初めにも、やっぱり、こういう危機があったの?」

私「高木貞治の『近世数学史談』に、取り上げられているように、18世紀終わりから、19世紀の初めは、どんどん数学が進んだ、面白いときだったんだ。あのとき、もちろん、計算機なんてない。合っているかどうかは、小数点以下5、6桁くらい、計算してみないと、確かめられない。そんな時代でも、数学を進めていた人達が、何人もいたんだよね」

若菜「Mathematica を使えるお父さんは、本当に、数学者として、恵まれていますね」

私「だから、私は、この21世紀に、どんどん進んだ、量子コンピューターや、量子もつれ、などが、これ以上進歩できなくなったとき、そういうことは、実際来るだろうと思うんだ。いくらでも小さいメモリーは作れないだろうしね。だから、進歩できなくなったとき、先を急ぐばっかりに、丁寧に数学や物理学の基礎を学んでいなかった人達を、安心させられるぐらい、数学を手広く研究しておきたいんだ」

結弦「お父さんの、役目だね。そのためには、量子コンピューターでなくとも、Mathematica で、十分なんだね」

私「そうだ」

麻友「代数学の基本定理を、証明したから、もう0時27分よ。寝なさい」

私「じゃ、おやすみ」

若菜・結弦「おやすみなさーい」

麻友「おやすみ」

 現在2022年12月31日0時28分である。おしまい。