『数Ⅲ方式ガロアの理論』のガイドブック

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数Ⅲ方式ガロアの理論(その37)

 現在2021年6月18日17時58分である。(この投稿は、ほぼ5987文字)

麻友「しばらく、ガロアは、おやすみだったわね」

私「4月16日以来だから、2カ月ブランクがあった。前回、私以外にも、この本のことを、色々書いている人がいると、紹介したのだった」

www.ne.jp

麻友「これは、利用させてもらいたいわね」

若菜「前回の、


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広田先生は将棋が好きなので、いろいろなことを将棋になぞらえる。 きっと著者の矢ケ部氏も将棋が好きなのだろう。それがわかるところがある。 22 ページ、下から9ページに「定跡」ということばが出てくる。うまくいく方法、という意味だが、 将棋の場合にのみこの字を当てる。 普通は「定石」を使う。こちらは囲碁の場合に使い、また一般の用法に転用されてもいる。


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       (まりんきょ学問所の中の『矢ヶ部 巌:数Ⅲ方式 ガロアの理論』のページより)


の中の、『22ページ、下から9ページに』は、

◯ 22ページ、下から9行目に

✕ 22ページ、下から9ページに

ですね」

結弦「おっ、獲物があった」

麻友「始めるわよ。前回の復習」



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             連立方程式への変形


小川 {3} 次方程式

{y^3+py+q=0}

の三根を {\alpha,\beta,\gamma} とすると

{\left\{
\begin{array}{l}
\displaystyle
\alpha + \beta + \gamma=0\\
\alpha \beta +\beta \gamma +\gamma \alpha =p\\
\alpha \beta \gamma =-q
\end{array}
\right.
}

ですね.

佐々木 これを {\alpha,\beta,\gamma}連立方程式と考えて解くといいわけだ.連立方程式を解く定跡どおりに,つぎつぎと未知数を消去していく.第一式から

{\gamma=-(\alpha+\beta),}

これを,あとの二つの式に代入すると

{\left\{
\begin{array}{l}
\displaystyle
\alpha \beta -(\alpha+\beta)^2=p\\
ー\alpha \beta (\alpha+\beta)=ーq
\end{array}
\right.
}

つまり

{\left\{
\begin{array}{l}
\displaystyle
\alpha^2+\alpha \beta+\beta^2=-p\\
\alpha^2 \beta +\alpha \beta^2=q
\end{array}
\right.
}

と,まず {\gamma} が消去される.


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麻友「ここから、新しく、テキスト23ページ」


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 つぎに,{\beta} を消去する.第一式に {\alpha} を掛けた式から,第二式を引くと

  {\alpha^3+\alpha^2 \beta +\alpha \beta^2=-\alpha p}

ー)   {\alpha^2 \beta+\alpha \beta^2=q}
──────────────────────────────────────
  {\alpha^3~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~=-\alpha p-q}

つまり

  {\alpha^3+p \alpha +q=0.}

 なんだ,もとの方程式にもどってしまったよ.

小川 それはアタリマエですね.{\alpha} は初めの方程式の根なのだから.

広田 その通りだ.2次の場合でも,連立方程式から未知数を消去して行けば,最初の2次方程式に返る.

 連立方程式に直して解くのが有効なのは,係数の間に特別な関係があって,根の公式を使わないで簡単に解ける場合だけだ──といったろう.

佐々木 ぼく,ダメな奴.


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麻友「ここなんだけどね。もとの方程式にもどってしまった、というのが、なかなか、分からなかったのよ」

若菜「ああ、{\alpha} についての3次方程式なんて、出てきたばっかりだし」

私「確かに、高校の文系の女の子なんて、ほとんどが、そのレヴェルだと思う。だから、今回、敢えて取り上げた」

結弦「お母さん、なかなか、分からなかった、ということは、後では、分かったの?」

麻友「何度も、この節を、読み返したの。そうすると、もとの方程式とは、

{y^3+py+q=0}

のことのようなのよ。そう思ってみると、

{\alpha^3+p \alpha +q=0}

は、未知数の {y}{\alpha} の違いはあるけど、係数は同じよね。掛け算は、順番変えてもいいわけだし」

私「そういうことなんだよ。未知数にどんな文字を使っても、方程式として同じ、というのが、ここでは、重要な位置を占めている。未知数の文字が違うために、意味が変わる場合もあるが、今の場合は、麻友さんの理解で、正しい」

若菜「未知数の文字が違うために、意味が変わるとは、例えばどんな場合?」

私「これは、以下の『公理論的集合論』での、ローカルルールだけど、『小文字の {x} は、集合を表す。大文字の {X} は、一般にクラスを表し、集合とは限らない』という約束をしている。このルールは、便利で、ベルナイス・ゲーデル集合論で、証明が厄介な、『一般存在定理』というものの証明が、半分くらいの労力で、できてしまう。私の、NKとBGの要約、でも、使っている」


倉田令二朗・篠田寿一『公理論的集合論』(河合文化教育研究所)


若菜「{a} と、{A} も、違うんですね」

私「そう。余り一般的なものではないから、このルールを使うときは、初めにことわる必要があるけどね」


麻友「でも、私、これに気付いたとき、分かったんだ。太郎さんは、中学3年生で、3次方程式を解こうとしていて、同じように連立方程式を立てて、未知数を消去していって、初めの方程式に戻ってしまって、『あれっ、最初に戻っちゃった。この方法では、だめなんだ』と、思ったことが、あったのだろうなと。太郎さんが、3次方程式を解けるようになるのは、高校1年生でのこと、太郎さんって、いっつも沢山の問題を飼っているのね」

結弦「例えば、今、飼っている問題って、1つ教えてよ」

私「例えば、そうだな。『数学をつくった人びとⅠ・Ⅱ・Ⅲ』という本がある。これには、5次方程式は、代数的には解けないが、代数的に拘らなければ、楕円モジュラー関数というものを、使って解けると、書いてあり、さらに、一般の {n} 次方程式は、保型関数というものを用いて、解けると、書いてある。エルミートの章だ。この保型関数というものについては、日本語の文献が、ほとんどない」

E・T・ベル『数学をつくった人びとⅠ・Ⅱ・Ⅲ』(ハヤカワ文庫)

私「英語では、automorphic function(オートモルフィック ファンクション)と言い、日本人の志村五郎が、プリンストン高等研究所で、研究していたようだ。ただ、本人が、2019年に亡くなっている。私は、以下の文献のみ持っているが、役に立つかどうか、分からない」


志賀弘典(しが ひろのり)『保型関数』(共立出版 数学の輝き10)


結弦「つまり、一般の {n} 次方程式の解を見たい、という問題を、飼ってるってことなんだね」

私「そうだ」

麻友「今すぐだって、分かるかも知れないのに、問題を飼ってるなんてね」


私「ところで、本文の、『ぼく、ダメな奴』なんだが、マカロニ・ウエスタンの西部劇の映画『続・夕陽のガンマン』の最後に、決闘した後3人が、『俺、ずるい奴』、『俺、いい奴』、『俺、悪い奴』という部分があって、1966年日本公開で、あのクリント・イーストウッド主演の有名な映画だった。矢ヶ部さんが、意識して書いた可能性は、高い」

結弦「イーストウッドが、マカロニ・ウエスタン?」

私「知らないんだろうな。クリント・イーストウッドって、マカロニ・ウエスタンで、バンバン撃ちまくってた役者だったんだよ。でも、成長したよねえ」

麻友「確かに。じゃあ、私達も、成長しましょう。始めるわよ」

若菜・結弦「はーい」


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広田 この場合にも「特別な関係」を利用するしか手はない.あるだろう.

佐々木 トクベツな,トクベツな──と.

  {\alpha +\beta +\gamma =0}

だな.これは {p,q} とは無関係に何時でも成立する「特別な関係」だ.

 でも,どう利用するの.

小川「これから

  {\gamma=-\alpha -\beta}

で,{\gamma} は初めの3次方程式の根だから

 {(-\alpha -\beta)^3+p(-\alpha -\beta)+q=0.}

 2次方程式から根と係数との関係を求め,逆に,それを連立方程式と考えて解いたように──これを {\alpha,\beta} の方程式と考えて解くのですか.

佐々木 これだって,もとの3次方程式とあまり違わないじゃないか.

広田 これしか手掛りはないだろう.

 未知数 {u,v} についての方程式

  {(u+v)^3+p(u+v)+q=0}

一組の根がみつかれば,最初の3次方程式は解ける,という方針が立つ.

小川 根の和は初めの方程式の根ですから,佐々木君がさっき実演したように,初めの方程式は1次式と2次式との積に因数分解されるからですね.


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麻友「ここまででも、?マークが、いっぱいなのよ」

私「聞いてごらん。どんどん」

麻友「例えば、

 {(-\alpha -\beta)^3+p(-\alpha -\beta)+q=0.}

で、{-\alpha} とか、{-\beta} だったのに、なぜ、

  {(u+v)^3+p(u+v)+q=0}

では、{u=-\alpha} とか、{v=-\beta} みたいに、置いているの?」

私「ここ、3次方程式を、勉強するとき、最初に躓くところなんだよね。中学3年生で、百科事典で、調べたときも、いきなり、『{x=u+v} と置いて、{u,v} についての方程式とみて、解く』みたいに書いてあって、『なぜっ?』って、分からなかった。結論から言うと、3次方程式を、最初に解いた、フェローか、フォンタナが、『そうやったら、上手く解けちゃった』ということなんだよ。有史以来、3千年くらい解けなかった、3次方程式が、1535年頃、偶然、こうやったら、解けちゃったんだよ。でも、偶然解けた場合でも、人間は、理由が気になる。そこで、矢ヶ部さんは、{\gamma=-(\alpha+\beta)} という変形をして、見つけたんじゃないか? と、ここに、書いてみたんだよ」

麻友「えっ、矢ヶ部さんの説だと言うの?」

私「数学の文献、今まで、沢山見てきたけど、いきなり、『{x=u+v} と置いて』と書いてある文献が、ほとんど。高校2年で、矢ヶ部さんの動機付けを見たけど、私は、偶然見つかったという方が、ありそうな気がする。数式いじってて、偶然解けちゃうということ、私には、今まで、何度もあるから」

結弦「例えば?」

私「{x^2=i} という方程式のときや、{i^i=?} という問題や、そもそも、試験問題って、色々やっていくうちに、解けるものじゃない」

若菜「色々やっていくうちに、解けるんだ。お父さんの、エデュカっていう塾の、面接で落とされたのも、ただ思い付いちゃっただけで、理由なんてなかったから、『どうして判別式使ったんですか?』と聞かれて、答えられなかった。そういう人なんだ。お父さんって、本当に」

麻友「でも、太郎さんに、矢ヶ部さんの説なんだと聞いて、私、視界が開けた。はしがきに、『可能な限り,原典にあたっている.それらの論文には「足場」は残されていない.演出者が代われば,別なドラマが展開されよう』と書いてあって、どういうことか、分からなかったのよね。太郎さんの演出だったら、『偶然 {x=u+v} と置いたら、上手く行った』とするかも知れないのね」

私「数学の面白さ、またちょっと、味わったんじゃない? 今晩は、ここまでにしよう」

麻友「もうひとつ、『佐々木君がさっき実演したように』のところの、さっき、がどこなのか、分からなかったんだけど、次回教えてね」

私「じゃあ、解散」

 現在2021年6月18日22時24分である。おしまい。